男はその日、ベランダから月を眺めていました。三日月とも言えないし満月とも言えない、中途半端なその日の月を、ただぼうっと眺めていました。
男にとって別段変わったことのない、ごくごく平凡な一日ではありましたが、煙草をくわえながら今日を反芻してみるのでした。
やや薄い唇の間から吐き出された煙が月に重なります。辺りは街灯も少なく暗いので、月に照らされてようやく煙が見えるようになります。男はその様子が、昔観た日本昔話の挿絵のように見えて、それはとても懐かしく、それでいてやるせなく感じるのでした。
男がこの街に出てきて、三年がたちます。彼は、さしたる使命感や目標のないまま、都会に出てきたという事を、必然の人生であると受け入れています。
決して満足しているわけでもありませんし、かといって何かを求めているわけでもありません。ただ、自分の欲求が、満たされることのないよう、枯れ切ってしまうことのないよう、それだけを考え、ただ漫然と生きているのです。
もし、そんな男に出会ったら、
やはり、「一度しかない人生なのだから、もっと積極的に行動を起こすべきだ」といった、前向きなアドバイスを伝える派ですか?
それとも猫派ですか?
ぼくは犬派です。
猫アレルギーなので。
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